副騎士長ともなると、観察力も優れていると感心する。

「禁じられておる秘薬を使った報いだな。龍神の力も月も満ちて尚、消せぬとはな」

「王子、カートを持ってきてようございましたね。さあ、遠慮なく」

紅蓮は俺に背を向け、腰を屈めた。

「すまぬな」

俺を背負い、すくっと立ち上がった紅蓮殿はカートを片手で押して歩いた。

「王子、明日からは遠慮も我慢もなりませんよ、よろしいですね」

静かな声だった。

「凛音は恐らく、安全祈願と無病息災の御守りをもらいに行ったんですよ」

王宮入口、紅蓮はポツリと呟いた。

旅の支度を整え、風呂に入り、寝床につく。

煌々と輝く月が部屋を照らしている。

1カ月前の視察とは明らかに緊張感が違う。

それも、任務の不安よりも体調の不安ということが情けなくてならない。

ふと時計をみると、既に立待月に変わっていた。