「数年前は緑潤う美しい村だったはずだ。黄金色の稲穂も実っていた」

王子は怯む様子もなく説明を求めた。

「知らないのか! 何を今更、のこのこと視察に……さあ、帰れ。話すことなど何もない」

邪険にまくし立てられる王子が気の毒で、農夫に会釈し「行きましょう、王子」と促した。

「まだ話は終わっておらぬ」

「あれでは話は聞けません、他をあたりましょう」

小声で言い、王子の手を引いた。

王子は私の手を振り払い、歩を速める。

「王子! ずいぶん歩きました。疲れていらっしゃいませんか」

「疲れてなどおらぬ」

王子は額から流れ出る汗を何度も拭う。

「この荒みようは尋常ではない」

「王子、お待ちください」

王子は大股で歩き、私の数歩先を歩く。

「干上がった湖、渇ききった大地、民はこれではろくな食事もしていまい。領主は知っているのか」