王子はわたしの手の上に、そっと手を添えた。

「我が国の実情をもっと直に観て回らねばと思うておるのだ」

王子にとって江藍の光景はよほど衝撃的だったのだろうと思う。

共に高台から眺めた町並みの悲惨さは、わたしの目にも鮮やかに焼きついている。

「良きお考えと存じます」

王子の目をじっと見つめた。

1日目の試合は滞りなく行われた。

やはり目立ったのは貴族の雇った闘技奴隷だった。

桔梗さまは試合が終わると、倒れ込むように王子にもたれ掛かられた。

王女護衛騎士の梨花どのが手際よく桔梗さまを抱えて、闘技場を退場なさった。

両陛下はその様子をやれやれ先が思いやられると言いたげに、呆れて見つめておられた。

「凛音」

王子を支え闘技場を出て宮中広場へ差し掛かった時、王陛下に呼び止められた。

「後ほど、謁見の間へ。紅蓮と共にな」