噛み合わない歯車に巻きこまれていく不安を懸命に拭い去れと、首を振った。

会話する間もハーン殿は、手を動かし続けている。

騎士服の袖を肘上まで上げ、アルコールに浸した綿で拭くと容赦なく、注射器の針を突き刺した。

「フラつき、動悸、息切れ、眩暈、倦怠感は数十分で1時的に治まりましょう」

昨晩、接種された秘薬の痛みに比べれば、痛みは無いに等しかった。

続けてハーン殿が取り出した注射器の大きさに驚き、目を見開き息を呑む。

「大きいですね」

凛音が注射器を見つめ、固まっている。

「痛み止めにございます。数分かけて、ゆっくりと投与いたしますので尻をお出し下され」

ハーン殿は表情を全く変えない。

「凛音、終わるまで目を閉じておれ」

「は、はい」

凛音は顔も首も耳まで赤くし、俺に背を向けた。