王子、月が綺麗ですね

話す内容は頭に入って来ない。

ただ安心した。

「救護室へ……ハーン殿が待っておられる」

凛音は俺の体を支えて、ゆっくりと歩いた。

「奉納試合、お見事でした。客席からも歓声がすごかったんですよ」

答える気力もないほど、倦怠感が激しかった。

体を支えてもらって尚、体が重たく力が抜け、糸の切れたマリオネット状態だ。

「凛音、ハーン殿に知らせてもらえぬか……体が動かない」

凛音にしなだれかかりしゃがみこんだ俺の体を凛音は、懸命に擦った。

「王子、此処においででしたか。大丈夫……ではないみたいですね」

「副騎士長」

声を漏らしたのは凛音だった。

俺は紅蓮を目で確認したが声を出す気力さえもなかった。

「凛音、ハーン殿に王子を今すぐお連れすると」

「はい」

凛音が足早に駆け出す音が聞こえた。