夜半、自室を音を立てないように退室し、王子の間へ向かった。

こっそりと自室を出たはずなのに、「おい」と低い声がし、肩を叩かれ呼び止められた。

ビクつき、声の主の顔を確かめる。

「……紅蓮殿」

「王子は秘薬を使うのだろう?」

──何故

問いかけは声にならず、空気がただ漏れた。

「女の力で暴れる王子を押さえられない」

紅蓮殿はキッパリと言い放ち、わたしの前を歩いた。

王子の間のある通路まで歩くと、侍医ハーン殿が王子の間に入って行くのが見えた。

ハーン殿を追い急いで王子の間に入ると、王子はベッドの上に上半身を起こし座っていた。

紅蓮殿の姿を確認すると「察しが良いですね」と、気まずそうに呟いた。

ハーン殿が医療鞄を開け、秘薬接種の準備を始めると、緊張感と不安でわたしの胸は早鐘を打った。