「口説い」

侍医を睨み、首筋に手を当てると指に冷たい感触があった。

「手当てをいたします」

侍医は言いながら救急箱を開け、消毒液と脱脂綿を取り出した。

鼻を啜り立ち尽くしたままの凛音に「両陛下に目覚めたと知らせよ」と、伝えると小さく頷き1礼し、部屋を出た。

「幽門の徒の秘薬など、よう知っておったな」

「……王子は凛音の素性をご存知ないのですか」

侍医は手を休めず、不思議そうに訊ねた。

「凛音とは物心ついた頃から共に居る。過去などどうでもよい」

「素性の知れぬ者を信用し過ぎてはなりませぬな。事が起こった後、気を引き締めなされ。如何なる時も隙を作ってはなりませぬぞ」

「敵は内からも……ということか」

「さよう。闘神祭も3日後、今は何が起きてもおかしくないと思うておらねば」

「留めておく」

侍医は静かに首を振り「それから」と付け加えた。