王子、月が綺麗ですね

「……幽門の徒の秘薬に筋力を1時的に増強し、戦闘能力を」

「凛音!! 話してはならぬ」

俺は喉元に懐剣の切っ先を軽く押し当てた。

「王子、お止めください」

凛音が涙声で駆け寄った。

「では話せ」

「戦闘能力を高める『烈身』と呼ばれる薬がございます。でも……あれは強い後遺症が残ると解り使用が中止された危険な薬です」

凛音は涙をポロポロと零して語り終え、俺の手から懐剣を素早く奪った。

「ハーン殿、『烈身』の効き目はどのくらい保つ?」

「王子は無茶をなさいますな。接種後、およそ半日で効き始めまする。効力は3日にございます。──弓張月、まさに闘神祭当日」

侍医は低く声を潜め、眉間に皺を寄せている。

「明日の朝から鍛錬に参加する。直ぐに用意せよ」

「念を押しまするが接種時に屈強な者でも暴れるほどの痛みを伴い、後遺症の強い薬、何が起きてもよろしいのですな」