王子、月が綺麗ですね

侍医が無言で首を振り、合図をしていた。

「何も存じませぬ」

必要以上に強張り、音を立てる唇が「知っている」ことを確信させた。

「歴代女王の闘神祭には必ず、王子が奉納試合を行っている。皇族の健在と、女王を護衛する騎士団の堅固を知らしめる役目を担ってきた。出場しないわけにはいかぬ」

凛音と侍医は頑なに「存じませぬ」と呟く。

「公でお飾りの王子だとのレッテルを貼られるとあっては、王名を国を汚すことになる……ましてや皇族の男子が近衛騎士に属することは諸外国にも広く知られておる。公の場で試合を棄権、或いは負けたとあっては国の戦力を問われるであろう」

俺は枕元に手を伸ばし、懐剣を手に取った。

鞘を開け、懐剣を両手で握り、自分の喉元に突きつけた。

「王子!!」

凛音と侍医の顔から、血の気が一気に失せた。

「話さぬなら」