王子、月が綺麗ですね

「それでは遅過ぎまする!!」

俺より先に凛音が叫んだ。

「望月では遅いのです。闘神祭が弓張月に控えております」

侍医が肩をびくつかせ、振り返った。

「闘神祭の奉納試合をなさるおつもりか? そのお体では無理でございましょうな」

「無理は端から承知しておる。だが朔の晩の出来事も体のことも、外へは知られる訳にはいかぬ」

俺は侍医に懇願する思いで、その手を握った。

「承認されておらぬ薬でも、劇薬でもかまわぬ。或いは闘神祭の奉納試合の間だけでも、足の自由が利けばよい」

「加用な薬は……ございませぬ」

俺は侍医が微かに俯き、半分目を伏せたのを見逃さなかった。

何か言い淀んだのを察知した。

凛音が目を赤くし、口を手で覆い、こちらをじっと見つめている。

「凛音、そなたは何か知っておるな」