梢琳の宿を出立した後。

わたしたちはひと山越えて、麓の村にたどり着いた。

有明月の翌日に出立し、今日は晦日(つごもり)

この3日間、王子は紅蓮殿と祥に入れ替わり立ち替わり背負われていた。

月は形をなさず見えない、朔の前日。

「不調の原因、月のせいか?」

祥が荷物を担ぎ直しながら、王子に訊ねた。

「すまないな……ここまで月の影響を受けるとはな」

「葵くん、月の影響だけとは限らなのでは? 八咫烏からの連絡もまだないようだし」

紅蓮殿が落ち込む王子の気をそらすように言った。

「ああ。式神からも何もない」

「何かが起きていると見るのが筋だろうね」

わたしは見えない月を見上げる。

「あんた、体はどうなんだい、熱も出てるだろう?」

「宿まで急ぐぞ」

わたしたちは会話も少なく、宿を目指した。