「王子……あんな薬の名を……口を滑らせなければ」

凛音が俯いて、声を震わせて言った。

「何も言うでない」

「でもっ!!」

「其方が口にせずとも、余の覚悟は定まっていた」

凛音はハッと目を見開き一瞬、俺を見たかと思うと、その頬にひとすじ涙が伝った。

「もし、目覚めなかったらとは思われなかったのですか」

しゃくりあげながら、訊ねる。

「それもまた、余の運命(さだめ)……」

俺が言い終えないうちに、凛音が俺の体にしがみついた。

「嫌です。わたしは王子が居なくなるなんて嫌です。絶対に嫌です」

俺は凛音の背を撫でながら「どこへも行かぬ。其方を置いて何処へも行かぬ」と囁いた。

「約束ですよ。破ったら針千本、飲んでもらいますからね」

凛音が俺の手を取り、小指と小指を絡める。

「指切りげんまんウソついたら……」

子どもっぽいことをすると、クスリ声に出して笑うと、凛音はぷくりと頬を膨らませた。