俺は指で印を切り、新たに式神を使役した。

更なる風早の監視と風早にまつわる事業、人々の動きを探れと命じ解き放った。

八咫烏(ヤタガラス)を呼び、母上(へいか)に北都と東都、そして西都の異変の調査を依頼した。

とくに西都の江濫。

有力貴族の玄懆が謀叛人として牢獄に繋がれているとしても、彼の部下が暗躍を諦めたとは思えなかった。

朔が訪れる前に、できる限りの情報を集めたい。

朔が訪れる前に、できる限りの策を施しておきたい。

皇族として、俺にも成すべきことはあるのだと信じたかった。

いつの間にか、白んでゆく空を眺めていると「コンコン」と音が聞こえた。

音のする方へ、目を向ける。

「ーー葵くん」

静かな、躊躇いがちの聞き慣れた声が俺を呼んだ。

「凛音か、入ってこい」