ハーン殿は「よろしいですな」と念押しし、幾つか薬を置いて、部屋を出た。

彼はこの後、近くの宿で1晩過ごし、翌朝日の出と共に南都へ出向き、薬草を調達し、次の落ち合い場所へ向かうのだ。

数名の護衛と弟子1人を伴い、荷馬車の旅だ。

齢50半ばにしては多少、老け込んだ感があるし、何かと口うるさい男だ。

皇族の侍医を長年、勤めているだけあって陰陽道についても精通している分、気の変化には敏感だ。

式神(しき)を使っていることは悟られぬよう、心しておかねばと気を引き締めた。

「はーーぁ、やっと息をつけますね。ハーン殿は堅苦しくていけません。失礼します」

紅蓮殿は膝を崩し、両足を伸ばし、背伸びをした。

「ハーン殿に失礼ではないか」

ハーン殿の手前そう言ったものの内心、俺自身もホッとしていた。