王子、月が綺麗ですね

「あんたは朔の前後、動けないんだよ。梢琳の先は無茶をおしでないよ」

瑞樹さまはいつになく熱をこめて、王子に訴えられた。

「わかっている、わかっているけれど……」

「気が急くのはわかるけれど、アムリタの祠まではかなり距離がある。朔前には着かないね。葵くん、何か術はないのかな」

紅蓮殿は王子の肩をポンポンと叩き、子どもを宥めるように優しく言った。

「術──式盤にはアムリタの方角に凶と出ていた。他は……式神か。あまり得意な術ではないが、致し方あるまい」

祥は得意ではないと聞き、あからさまに大丈夫なのかという顔をした。

王子は懐から素早く人型の紙を取り出した。

『ひふみよいむなやこともちろらねしきるゆゐつわぬ……急急如律令』

王子が慎重に念をこめ、呪文を唱えると人型の紙は王子そっくりの形に変わり、どちらが本物かわからなかった。

「スゲーッ」