王子、月が綺麗ですね

1晩中、王子の側についていた紅蓮殿も祥も、瑞樹さまも、演奏前は疲れた表情をしていたけれど、演奏が終わると晴れやかな表情に変わっていた。

夜中に医者を呼んだり氷嚢を用意し奔走した女将や仲居たちも、やつれた様子からシャキッとした様子になっていた。

「女将、色々とお世話をおかけしました」

「調子が戻られてなによりです。道中、お気をつけて」

宿を出て直ぐ、王子は松葉杖をついて歩きながら「明王──アムリタの祠を確かめておきたいんだが」と切り出した。

紅蓮殿は「気になることがおありですか?」と、眉間に皺を寄せた。

「姉上の卜占や八咫鏡を通しての術では充てにならないって言うのかい?」

「現に気の乱れが増しておるのです。異変が起きているのは間違いないのです。元凶があるとすれば明王──」