王子、月が綺麗ですね

「何故っ……ですか」

「探られたくないことがあるんだろうよ。幾ら評判が良くても、あれだけの資財を築いている男だ。叩けば埃が出てきそうだね」

「あ……っ」

「旅の目的が理解できたかい?」

「はい」

「ちょっと行って様子を診てくるよ。あたしのヘボい力でも少しくらいは役に立つだろうからね」

瑞樹さまはそう言って部屋を出て行ったきり数時間、部屋に戻って来なかった。

「藪医者を連れて来るんじゃないよ。ったく」

疲れた様子で部屋に戻り、捨て台詞を吐いたかと思うと即行、布団に入られた。

「あんたも早く休みなよ。あの子のことなら心配いらないから」

瑞樹さまは背を向けたまま気だるげに、でもその声は優しかった。

「あんたは笑っていておやり。どんな時も側で笑っていておやり」

その声が微かに震えていた。