「何なんだ、アイツは」

夕刻、花琳の宿に着くと、紅蓮殿は手続きもそこそこに急いで王子を部屋に案内させた。

祥はロビーでひと息つき、眉を吊り上げ愚痴を零した。

「訳のわからない呪文を唱えたり、印を結んだり、いきなり炎の中に手を突っ込んだり、自分の足も自由にならないくせに人の身体を癒やしたり」

「それが葵くんなんです」

「何もなかったからいいようなものの、下手したら火傷だけでは済まなかったんだろ」

「心配いらないよ。あの子はちゃんと訓練しているんだ。そんなヘマはしないさ」

「そういうことを言ってんじゃねえ。説明もなしにいきなり行動すんなってことだ。やることなすこと一々、こっちの肝が冷えるんだよ」

「それは無理だろうよ。何もかも話す子ではないからね。深刻なことほど話さない子だ、そうだろ凛音」

「はい……」