休処を後にし、峠を下る。

それまでの鬱蒼とした景色はなく、まだこんなに陽が高かったのだと思う。

紅蓮殿と祥が交替で王子を背負った。

休処から着いてきた男性は饒舌で、都から来たと言う。

朔の日、王宮から立ち上った光の柱が龍の形に姿を変えたのも見たと話した。

わたしたちは相づちを打ち、知らないふりをして聞いた。

「さっき、茶屋の給仕が朱雀の話をしていただろ?  実はな最近、社の周りで夜な夜な青い火の玉がゴウーっと凄まじい音を立ているそうな。あれは怨嗟の念にちがいないと」

「へえ~。あんたはこの峠をよく越えるのかい?」

瑞樹さまは恐がる様子もなく訊ねられた。

「週に1度な。だが、夜に峠を越えたことはないな」

「怨嗟とは、安直な。朱雀の社の裏手には硫黄泉があるし滝もある。青白い炎は硫黄が燃えているのではないか」