「紅蓮、礼と楽団の宣伝を兼ねて1曲弾きたい」

「御意、勘定を済ませます間にご準備を」

紅蓮は自分の荷物と俺の荷物を抱え、叔母上と祥を連れ、玄関へと向かった。

凛音と俺はその後を追い、玄関先の待合いでそれぞれ楽器を取り出し調弦した。

凛音と共に、昨日の役所前広場で弾いた曲を適当にアレンジした演奏でよいなと打ち合わせた。

玄関に勢揃いした女将と仲居数名が三つ指を着いて見送ろうとするのを「仰々しいから顔を上げてもらえないか」と、言ったのは叔母上だった。

しきたりだから仕方あるまいと思ったが、凛音と曲を演奏し始めると、彼女たちは自然と顔を上げた。

付け焼き刃の演奏で申し訳ないと思いつつも、このくらいアレンジしても凛音なら着いてこれる程度に、アレンジして曲を弾いた。

「お……、あ葵くん!?」

数小節弾いたところで凛音が指を止め、俺を見て目を丸くしていた。