「わたしが幽門の徒の秘薬の名など話さなければ王子のおみ足は」

「莫迦だね。あの子はあんたに聞かなくても『烈身』のことを知っていたのさ。闘技奴隷の身の安全のために禁じられた秘薬のことを全く知らないわけがないだろう、姉上と義兄上の子だよ」

「でも……」

「王位継承権がなくても、あの子には王族の自覚はあるんだ。でなきゃ身体もろくに動かないのに奉納試合に出たり、湯治にかこつけて南の都の視察を申し出たりしやしないよ」

「えっ!?」

「気づいてないのかい。南の都は桔梗の婚約者に決まった風早の居る都だ。風早が評判通りの人間なのか、裏表はないのか、あの子なりに考えての視察だろう。西の玄燥のこともあるからね」

浅はかだったと思った。

王子の言葉があまりにも穏やかで、王子の思惑など頭になかった。