小さな宿だ。

1部屋ごとに食事を用意する人手もないし、浴場も露天の混浴で1つしかない。

「お連れさまには先に、風呂をお勧めいたしました。お食事ができましたら、お伝えに上がります。些末な宿ですので、ご不便もありましょうけれど、誠心誠意尽くして参りますれば、宜しくお願い致します」

「ありがとう、女将。早速ですまぬが白湯(さゆ)を頼む」

「怪我の治療に行かれるとか、それでしたら龍頭泉が当宿にございますので、汲んでまいります」

女将は楚々とした居住まいで申し伝えた。

「おみ足、それほどに不自由なさっていらしたんですか」

凛音が歯を食いしばり、俺を睨みつけていた。

「何故、話してくださらぬのです?」

「話したところで、痛みや痺れが治まるわけではあるまい」

「ですけど」