王子、月が綺麗ですね

「この子の痣は生まれつきで、あちらこちらの温泉を回り、神様にお詣りして、医者にも散々診せて、それでも治らない痣でしてね」

俺は女性の話を聞き、自分自身の足を思い重ねた。

「先ほどの演奏を聴いていて、温泉に浸かったり神様に詣ったりした時のような清々しさを感じまして」

「葵くん、演奏してさしあげては」

凛音が俺の手にヴァイオリンを握らせた。

俺は腑に落ちないまま、少女の痣が少しでも薄くなればと願いをこめ、ヴァイオリンを弾いた。

5分弱の短い曲を弾き終えると、少女が「顔が熱い」と泣き出した。

俺はヴァイオリンを凛音に預け、涙の伝う少女の頬をゆっくりと撫で、涙を拭った。

「えっ、痣が──」

俺の後ろで凛音の上擦り震えた声がし、少女の顔をじっと見つめた。

少女の顔半分に広がっていた痣が消えていた。