王子、月が綺麗ですね

凛音は真っ赤になった頬を覆い、俯いてしまった。

「直球過ぎるだろ」

「何が?」

「いや、だから……あんた、気づいてないんだ」

「はあ?」

祥と凛音の反応が俺にはピンと来なかった。

「お兄さん、今日はもう演奏お終いかい? この街にはいつまでいなさる?」

髪を結い上げ背筋をピンと伸ばし、和服を上品に着こなした年配の女性が、近づいてきた。

祥と凛音を掻き分け、俺に話し掛けた。

「申し訳ありません。今日はこれから央琳の宿まで行く予定です」

俺が静かに答えると「残念だねぇ」と肩を落とした。

よく見ると、女性の後ろにフードを被った幼い女の子が隠れて、こちらを見ている。

俺の目は女の子の顔の半分に、薄墨を塗ったような痣が広がっているのを見逃さなかった。

「あ──っ、どうした? 怪我を……痛むか」

俺は咄嗟に、松葉杖を握り、少女に駆け寄っていた。