王子、月が綺麗ですね

父上に勧められ、漠然とした気持ちで旅の楽団をしながら視察をすると決めたが、だんだん実感が湧いてくる。

俺たちはこれから、演奏を聴いてもらうんだと思うといい加減な演奏はできないと、気が引き締まった。

俺たちの演奏が終わると、いきなり抱きつかれたり握手を求められた。

泣きながら手を合わせている人までいて、複雑な気持ちだった。

「いい演奏を聴かせてもらった」と丁寧に頭を提げる人までいた。

「不思議だね。演奏を聴いていると、足腰の痛みが和らいで楽になったよ」

「あんたもかい!? あたしゃ、偏頭痛が治まったよ」

「いや~、朝から腹具合が悪かったんだが気にならなくなった」

声を掛け合いながら、広場を後にする人々の笑顔が、こちらまで疲れを忘れさせた。

「王……葵くん、緊張しましたね」

「そうか? 俺は凛音と一緒だから気持ちよく弾けたが」