王子、月が綺麗ですね

凛音とレッスン後に必ず演奏する曲は、目を閉じそらで弾けるほど何度も繰り返し演奏している曲だ。

かなり難度の高い曲だが、そこが何度演奏しても演奏しがいがあり、お気に入りでもある。

哀愁漂い懐かしさもある旋律は素朴さもありながら華やかさも感じさせる。

「へえ~、上手いもんだね」

叔母上がうっとりした表情で、俺たちの演奏を聴いている。

紅蓮は言葉もなく、俺たちの指を観察しているようだ。

祥は暫く俺たちの演奏を聴いた後、口笛を吹き演奏に合わせ始めた。

市場の買い物客や通りを歩く人々が、俺たちの演奏に足を止め、耳を澄ませて聴いている。

街頭演奏は初めてだった。

誰も見向きもしなかったならという不安と緊張は、弾き始めて数分で無くなった。

曲が中盤になる頃からは、大勢の人々が俺たちを取り囲み、ヴァイオリンケースに銀貨や金貨、お札が投げ込まれた。