かしゃり、ぱしゃり。
穏やかなレンズの音が、弾む様に響く。
そのリズムに合わせてポーズをとるのにも、もうすっかり慣れてしまっていた。
「…よし、アーサーお疲れ!」
ようやく出た終了の合図に、アーサーはほっとしたようにため息をつく。
「は~っ…結構、疲れるモンだな」
「付き合ってくれてありがとな。ほい」
労いのつもりか、フランシスは冷たい缶ジュースを渡してくる。
「お、お前にしては気がきくじゃねーか」
「お前な…仮にも後輩なんだから、もうちょっとこう、かわいい返事できないの?」
「へいへい…サンキュ、フランシス先輩」
「ぐっ…今のはズルい!一枚撮らせ__」
「時間外デース」
かわいい返事を、と要求されたので精一杯のかわいい(と思う)ポーズで礼を言っただけなのだが、思った以上に効果があったようだ。
今の表情を撮らせろと迫るフランシスをするりとかわし、撮影の後片付けにとりかかる。
「で、これこっちでいーんですか?セーンパイ」
「お前絶対楽しんでるだろ…ああ、そっちに片しといて」
「りょーかい」
あれやこれやと物をしまっているうちに、気付けばとっぷりと日は暮れてしまっていて。
昇降口でいつもの挨拶をして別れる…はずだったが、フランシスの声がそれを制止した。
「夜道、危ねぇだろ。送ってってやるよ」
「別に、俺は一人でも…っ」
「いーから。乗れって」
「…仕方ねぇな、乗ってやる」
時折見せる優しさに、胸が高鳴ってしまう。
そういう所が好きだなんて、絶対に言ってやらねぇけど。
寄りかかった背中から、心臓の音が聞こえる。
「……なぁ」
「んー?」
「この、まま…」
お前の家に連れていってくれないか、と言いそうになり、慌てて口をつぐむ。
「…何でもねぇ」
「えー、教えろよ。何か言いたかったんだろ?」
「本当に、何でもねーから…」
ああ、これ以上一緒に居たらばれてしまいそうだ。
けれど、皮肉な事に俺の家まではまだまだ距離がある。
「お前が言いたくないなら、当ててやるよ」
そう言って、フランシスは急に自転車を止めた。
「なっ…なんで、止めるんだよ」
「だってお前、まだ一緒にいたいんだろ?」
「…!」
「顔に書いてある。さっきからすげえドキドキしてるの、俺が知らないとでも思った?」
赤くなった頬に手が添えられ、軽くキスをされる。
「お前が嫌だって言っても、今日はこのままお持ち帰りしてやるから」
「……ばか」