(最悪!)優子は鏡を見ながら半泣きでうなだれた。安藤優子は21歳。大学の文学部に通う3年生だ。ストレートの胸まである栗色の髪が彼女の特徴だった。が、鏡の前の彼女にはあるはずの髪がない。
事件が起きたのは、いつもの昼下がり。優子はいつもの裏庭を歩いていた。いつもの香り、いつもの姿。友人と笑いながらじゃれる彼をちらっと見てから、窓の真下を歩いた時、
「うわっ」
真上で声がした。次の瞬間、強いチョコレートの香りが焦げる匂いへと変わった。
「きゃっ!」
この瞬間、好きな香りも人も一瞬にして髪の毛とともに奪われてしまった。