Be Girl－翼のゆくえ－

「ごめんな…」

あっという間に夢から醒めるような気がした。
その消えそうな弱々しい声の主が、ケンジである事をリンは信じたくなかった。

リンはその時、何かを覚悟し、何かが終わってしまう事を直感的に理解した。




「…引っ越すんだ。親の都合で」

そのケンジの言葉は、二人の間に埋めることのできない距離を作り出した。
目の前に、こんなにも近くにいるのに、温度を感じない。
玄関の置物にでも抱きついているような、そんな感じだった。

「ずっと、言えなかったんだ…本当は一緒にいたかったんだけど…お前を悲しませる事になることがわかっていたから。俺の中で気持ちを殺そうとしてたんだ…」

ケンジは悔しそうに、そして悲しそうに言った。
少しだけ、声のトーンがおかしかったのは、泣いていたからかもしれない。

初めての経験だった。
リンは人のために初めて涙を流した。