Be Girl-翼のゆくえ-

どうしてあの日、突然ウチに現れて、キスをして帰って行ったのか……

けれどもリンはその理由を聞けなかった。
その答えを聞くのが怖くて。

いや、それを聞いてしまう事自体が怖かったのだろう。
もしかするとただ話をする事すらも。

一方のケンジはこれといって変わった素振りも無かった。
時々リンのところに借りていた本を返しに来ては、また新しい本を受け取るという繰り返し。

「サンキュー」

もうこの言葉を何度聞いたかわからない。




中学校の卒業式まであと1週間。そんな土曜日。
その日もあのキスをされた日と同じように、外には雪が舞う寒い日だった。

受験も終わり、のんびりと暖かい部屋でファッション雑誌を読みながら、眠くてウトウトとしていたリンは、突然耳元で鳴ったケータイの音で目を覚ました。

『ケンジ』

画面に表示されるたった3文字は、以前一度しか見たことのないものであったが、何度も見たことがあるような、そんな気がした。

「今、家の前にいるんだけど、入っていい?」

あの時と同じだった。