「…帰らないよ」
ポツリと言った言葉が彼の表情を変えさせた。
彼がくれる優しさの分を返したい。
精一杯優しく微笑む私に大きく見開いた目が少しずつ戻り、同時に目尻が下がっていく。
私の体を支える両腕は背中に移動して、ぎゅっと抱きしめた。
小刻みに震える肩と包み込む腕。
歳も態度も私よりも大人な彼の強がりを教えてくれる。
「お前が帰って来なかった時、元の世界に帰ったんじゃないかと思った。
お前が毒を受けたと聞いた時、膝から崩れ落ちそうになった。
はぁ…、……俺は雨が居なくなることが怖い」
不安混じりの溜め息が彼の背中を普段より小さく見せる。
蚊が鳴くような最後との言葉に鼻の奥がツーンとする。
佐之が私を離して優しく微笑んだ時、もう限界だった。
涙腺が緩み、ボロボロと溢れ出した。
彼の胸に頭をつけて下を向く私を、優しく撫でてくれる。

