めぼしい情報は無く、しばらくすると自分たちの仕事に戻っていった。
トシが部屋を出ようとしたその時、くるりと振り返って私を見た。
その行動の真意が分からず、キョトンとしている私。
トシは「ごほんっ」と咳払いをして、斜め下に視線を下ろした。
「…仕事中じゃなければ、〝俺〟じゃなくてもいい」
「どういう意味?」、そう聞きたかったのに足早に去って行ってしまった。
訳が分からず、あんぐりと口を開けていると、勇はトシが去って行った方を見ながら笑っていた。
「トシは不器用だからな。
仕事の時以外は肩肘張らずに女子に戻れと言うことだよ」
ポンッと頭を撫でてから、トシの後を追うように去っていった。
咳払いをした時のトシの顔を思い出し、笑いが込み上げてくる。
「雨ちゃん」
ふと名前を呼ばれて顔を上げると、総司の顔が近くにあった。
驚いて目を見開いていると、額に温かく柔らかいものが当たった。
「…え…」
頭をフル回転させることで、それが総司の唇だったという事に気づく。

