「…何て言ってたの?」




彼の袖を掴んだ。


そうでもしないと、消えてしまいそうな気がした。




少し離れて俯いて、そのまま話し始めた。




「…お前の名前を呼んでいた。

届かないと分かっていても…、お前の意識が途切れるまで呼んでいた」




いつもの余裕が嘘のようだった。



あの笑顔が無いだけで、こんなに不安になる。



鬱陶しいだけだった存在が、今は恋しい。




「…私は大丈夫。

もう大丈夫だから」



彼に近づいて、背伸びをする。



不安定な雰囲気を払うように、彼の頭をそっと撫でた。



彼は目を見開いた。


けれど、それは一瞬ですぐに破顔した。



大人の彼が子供っぽく笑う姿に見とれてしまった事は絶対に言わない。