菊さんは脂汗のついた私の頬に触れる。
「帰る家もなく、仲間には裏切るような態度をとってしまった…。
哀れね、香月雨さん。
誰も貴方を必要とはしないわ。
貴方は……、〝要らない〟のよ」
───『お前は要らない』
あの人の言葉をこのタイミングで思い出す。
私から手を離して背を向ける菊さんの姿が、あの人に重なって呼吸が荒くなる。
……ねぇ、待って。
行かないで…、こっちを向いて……。
菊さんが完全にいなくなった後、男たちが動き出す。
私に手を伸ばす彼らを見る。
意識が朦朧としていたのが、少しずつ治っていく。
それと同時に、私の中が崩れていくような感覚さえする。
…私が……強ければ、あの人は……、あの人たちは……。
混合する意識の中、あの人のことを考えているのか、新選組のことを考えているのか。

