そんな瞳も気のせいだと錯覚しそうになるほど早く、彼はパッと私から手を離してニコリと笑った。




「僕は、忘れてた事を聞きに来ただけだからもう帰るよ。

おやすみ、雨ちゃん」



頭を撫でて、踵を返した。



その背中は寂しさが残っていたことに気づいたのに、何も出来なかった。



「ノア……、きっと総司は私を慰めに来たんだね。

……総司ってよく分からない」



クスクスと笑いながら、沈む心に蓋をした。



総司が寂しさに耐えるように、左之が我慢するように、私も何かを閉じ込めないといけない気がしたから。



「それより、『ウザい』ってそんなに珍しい言葉とは思えないけどね」




何気なく発した自分の言葉に引っ掛かりを覚える。



この世界では〝ウザい〟は使われない。


誰も意味が分からない程には。



一瞬、風も音も止んだ気がした。