「んー、その理論だと今貴女に出来るのは、赤木さん止めることくらいっすね」
音も無かった。
窓枠に足を掛け、上を片手で掴んでいた。
ここは上階であるにも関わらず、その少年は物ともせず、私をにっこりと見ていた。
動けない私はただただ、その少年に目を見開いていた。
「もしもーし。
俺、ここまで来るの一応大変だったんすけど」
呆れ顔の彼。
動けない私は固く警戒するしかない。
それを彼はまた不思議そうに見ていた。
「それだけ警戒するってことは、聞こえてるんすよね?
妹様がいらっしゃらない時間って少ないんで、単刀直入でいいっすか?」
表情や声音とは裏腹に、彼はどこか急いでいるようだった。
「新撰組の局長さんの首が取られるの、今日なんすよ。
一葉さんはどうか知らないすけど、俺にとっても不本意なんすよ」
顔は微笑んでいるのに、彼の言葉や目は冷たく凍てついた。
そして、最後の一言に私は冷静でいられなくなる。
「もちろん、雨さんにとっても」

