私の答えに、「そうか」と笑う彼は少し寂しそうだった。
「俺はいる」
突然の告白にバッと頭ごと彼に向いた。
いつもみたいな優しい笑顔は、どこか色っぽくて心臓が大きく脈打っている。
「…初めて、大事な女だと思ったんだ。
そいつは全然気づいてねぇが、俺に無いものを持ってるからだろうな。
……目がいつの間にか惹かれた」
愛おしそうに月を見る彼が眩しくて、遠くに感じる。
大きく脈打ち続ける心臓は潰れそうなくらい痛い。
血の気が引いたみたいに気持ち悪い。
月明かりに照らされる顔を見続けることが、涙が出そうなくらいしんどくて顔を逸らす。
一言で言えば、〝悲しい〟感情。
でも、お父さんや梅姉さんが居なくなった時とは全然違う。
盃にお酒を入れて、また飲み干す。
コクリと動く喉をぼーっと見る。
でも胸の痛みも訳の分からない感情も治ってはくれなくて、部屋に戻っても左之の表情が消えてくれなかった。

