「なんだか、廊下でアラタがボヤいていたね」
背後で嗄れた声がした。
振り返ると、そこには大きなフードを被ったガイコツがいた。
如何にも"死神"らしい風貌の男は、
番人取締役の"カルラ"という。
半端な存在の私たち番人を、
纏めて面倒を見てくれている人だ。
この姿のまま、人間社会の中を歩くわけだが、
私たちは姿を隠すことも現すこともできるので、
フードを被ったガイコツが世の中に現れることはない。
彼は永い間サイクルの外にいて、
元の姿を忘れてしまったらしい。
目の窪みの奥には、
真っ黒な闇が広がっている。
その見た目としゃがれ声に反して、
彼は番人たちに慕われるとても優しい上司なのだけど。
「私の振り分けが気に入らないようなの」
私は、文字を打ち込む手を止め、ふうっと息を吐いた。
「まあ、彼はああ言いながらも、いつもきちんと仕事をしてくれる。根は良い子なんだよ」
「そういうところが老人に人気なのよ」
私はニヤッとしてカルラを見た。
ガイコツなので彼の表情はわからない。
「君の仕事ぶりには、恐れ入る」
机の上にきっちり振り分けられたプリントを見て、
カルラは感心したように言った。
「さて、私もそろそろ行くわ。レイ!これ、研修生に配っておいてくれる?」
私は、オフィスの端で番人を研修している、レイという女性の番人に声を掛けた。
黒髪のショートカットで、細身の体型にスーツがよく似合っている。
レイは凛々しい顔をこちらに向けて、ハキハキと返事をした。
「今日も、宜しく頼むよ」
私は立ち上がると、長い髪を束ねて自分の分のプリントをカバンの中に入れて、カルラの激励に頷きながらオフィスを後にした。
