小さな愛の形

三人で学校に来るというのは、僕にとって初めての体験だった。

「あ！イッチーとツッキー！！おはよー！」
と何人かに挨拶された。

頑張って返しては見たものの、今井くんの大きな挨拶には勝てなかった。

「あれ？転校生も一緒じゃん」

そんな言葉が、どこかから聞こえてきた。

声が聞こえた方向を見ても、誰も知らない顔をしている。

なんだか、胸騒ぎがする。

「男に色目使ってんだって…」

そんな笑い声も聞こえた。僕の胸騒ぎは、間違いではなかったようだ。

しかし、彼女は笑っている。

「あれま！もしかして私、何かと噂になってる？」
とこの状況を笑っていた。

僕は、そんな彼女に何も言う事が出来なかった。

きっと、僕が口にする言葉は全てが慰めなのだろう。

そんなものを受け取って何が嬉しい。

他人の感情を他人が口にするなど、あってはならない。

その言葉は全て、『ニセモノ』なのだか。

「…気にしない方がいいよ。」
と今井くんは彼女を慰めていた。

「ありがとー！今井くんは優しいねー！」
と彼女は相変わらず、笑っていた。

僕はそんな彼女に、何も言わなかった。

教室に入った所で、重い空気が変わるわけではない。

教室もまた、重たい空気で満ち溢れているのだから。

僕達が教室に入った途端、何時ものように挨拶をする人で道がふさがれた。

何時もなら口角を上げて、適当に挨拶をしているのだろう。

でも、今日はどうしてもそんな気分にはなれなかった。

教室に入り、さっさと席に着く。

彼女も僕の後ろを追って、席に着いた。

すぐにチャイムが鳴る。今日は何時もより学校へ来るのが遅かった様だ。

先生が入ってくる。そんないつも通りの光景を横目に、僕は窓を見た。

まだ、朝の活気が残っている街並みは、少し行き急いでいるようだった。