いつもなら十五分ほどの時間で済むはずが、真っ白に積もった雪の影響で、今日は倍以上の時間を有した。バイト先の飲食店から、家とは逆の方向に国道沿いにしばらく走り、途中やたら信号が長いことで、この辺りでは有名な交差点を右折して、道なりに従って進むと、それはある。
孤児院「ひかり」
その名を強調するかのような、白をベースにした看板に、鮮やかな赤色のゴシップ調で、それは書かれている。何度この看板を見てきただろうか。これを見ると、色々なことを思い出すが、その中にいい思い出というのは、特に思い出すことができない。
その看板を通り過ぎて十メートルほど先、院内への入口がある。質素な鉄門が、来客を出迎える。ところどころ錆びついてしまっていて、ここの歴史の長さを感じる。
中に入ると、小学校よりも一回りも二回りも小さい運動場がある。あとは、滑り台や、鉄棒、ジャングルジムなどの簡単な遊具。かつては、このジャングルジムの頂上で、あの看板を見ながら、この世に「ひかり」なんてあるもんか、と、一人泣いていたんだっけ。今となっては、それもいい思い出、なのだろうか。わからないけれど、ここにくると、確かに僕はここで生きていた。精一杯生きていた。それが、節々から感じられ、妙に感慨深い。浸るような思い出など、ここにはないはずなのに。
運動場を突っ切って、そのまま玄関に向かう。木造のごく普通の和風建築。重くのしかかっている石瓦が、荘厳な雰囲気を醸し出している。それとは対照的に、白く色塗られた扉。最近、新しく塗装でもしたのだろうか。この部分だけやけに綺麗なまま残されている。僕はドアノブを力強く回して、遠慮なく中へと入っていく。そんなものいらないのだ。ここは、僕にとって第二の家みたいなものなのだから。
「ただいまー。」
腹部に力を込めて、大きな声で挨拶をした。恥ずかしいことはない。ここには、ちゃんと返事をしてくれる人がいる。
「おかえりー。」
パタパタという音が、向こうから小走りで近付いてくる。軽快でリズミカルなそれは、いつも変わらなくて、僕はこの音を聞くと、帰ってきたという実感が湧いてきて、心が温かい気持ちになる。
「いらっしゃい。よく来たね。」
「健二さん。久しぶりだね。」
あと二、三年もすれば、五十に差し掛かる彼は、この自動養護施設「ひかり」の職員で、僕にとっては父親代わりの存在だ。
孤児院「ひかり」
その名を強調するかのような、白をベースにした看板に、鮮やかな赤色のゴシップ調で、それは書かれている。何度この看板を見てきただろうか。これを見ると、色々なことを思い出すが、その中にいい思い出というのは、特に思い出すことができない。
その看板を通り過ぎて十メートルほど先、院内への入口がある。質素な鉄門が、来客を出迎える。ところどころ錆びついてしまっていて、ここの歴史の長さを感じる。
中に入ると、小学校よりも一回りも二回りも小さい運動場がある。あとは、滑り台や、鉄棒、ジャングルジムなどの簡単な遊具。かつては、このジャングルジムの頂上で、あの看板を見ながら、この世に「ひかり」なんてあるもんか、と、一人泣いていたんだっけ。今となっては、それもいい思い出、なのだろうか。わからないけれど、ここにくると、確かに僕はここで生きていた。精一杯生きていた。それが、節々から感じられ、妙に感慨深い。浸るような思い出など、ここにはないはずなのに。
運動場を突っ切って、そのまま玄関に向かう。木造のごく普通の和風建築。重くのしかかっている石瓦が、荘厳な雰囲気を醸し出している。それとは対照的に、白く色塗られた扉。最近、新しく塗装でもしたのだろうか。この部分だけやけに綺麗なまま残されている。僕はドアノブを力強く回して、遠慮なく中へと入っていく。そんなものいらないのだ。ここは、僕にとって第二の家みたいなものなのだから。
「ただいまー。」
腹部に力を込めて、大きな声で挨拶をした。恥ずかしいことはない。ここには、ちゃんと返事をしてくれる人がいる。
「おかえりー。」
パタパタという音が、向こうから小走りで近付いてくる。軽快でリズミカルなそれは、いつも変わらなくて、僕はこの音を聞くと、帰ってきたという実感が湧いてきて、心が温かい気持ちになる。
「いらっしゃい。よく来たね。」
「健二さん。久しぶりだね。」
あと二、三年もすれば、五十に差し掛かる彼は、この自動養護施設「ひかり」の職員で、僕にとっては父親代わりの存在だ。
