「ってこと。理解してくれたか?」

私は、月宮君から丁寧な説明をしてもらい、ようやく思考が落ち着きを取り戻せたことに安心を覚えた。
どうやら彼の話によると、倒れてしまった私を抱きかかえ学生証の住所を頼りにここまで運んでベッドに寝かし、ご丁寧に鞄を学校まで取りに行き再びここに戻ってきた処でタイミングよく私が目を覚ましたらしい。
あまりに信じがたい話を聞いたからか私は彼の顔をまじまじと見てしまっていたようで、彼は私から視線を外した。少し耳が赤くなっているような・・・。

やって見せれば話が早いかと呟くや否や私の手に彼はそっと自分の手を重ねてきた。

「っ!」

あまりの突然の行動に鼓動が早くなる。重ねられた手からは、人の温もりとまではいかないが、微かに暖かさを感じた。

「な?触れるだろ?これは、お前のおかげで触れるようになったんだ。ありがとな。まぁ、今日はゆっくり休め。疲れているみたいだし。また明日学校で会おう。じゃ、おやすみ。」

彼は自分の言いたいことだけ言うと私の前から突如姿を消した。触れられた温もりが残っているせいからか、この日はなかなか寝付くことが出来なかった。

「体調は大丈夫か?」

教室に入ると真っ先に私を心配する声が聞こえた。月宮君だった。

「おかげさまで、大丈夫です。ありがとうございました。」
そう言いながら自席に着く。

今は私たち2人しか教室に居ないので携帯電話を耳に当てて話す行為は不必要だと思いそのまま話をしていた。

「お礼を言うのは俺の方だ。昨日の効果が出たんだ。」

「効果・・・?鏡の前でやったやつ?」

「あぁ、あれは俺の力を解放させるための儀式・・・。いや、おまじないか。過去にやってもらったことがあるんだけど、成功しなくて。だから、今回初めて成功したんだ。ありがとう。」

「ちょっと待って。過去にって・・・。どういう事?それに儀式?ねぇ、私以外にも見える人がいたの?」

「カンナ。そろそろ人が来る。」

「あっ月宮君!」

私の声は彼には届かず地面に吸い込まれてしまった。すぐに何人かのクラスメイトが教室に入ってきて先程とは比べ物にならないくらい騒がしくなった。

いつもは空いてる席に座って授業を聞いている月宮君が今日は見当たらず、私は先ほどの彼との会話が頭の中を駆け巡り先生の声は全然頭に入ってこなかった。
(もぅ、何がなんだか分からない)

結局あれから一回も姿を現さなかった。
(やっぱり私図々しかったかな。こんな奴に話しかけられて迷惑だったよね・・・。)
自分の嫌な面がより際立って脳内を支配する。

「カンナ!!!」

不意に自分の名前を呼ばれ、声のする方に体を向けた。
声の主は分かっていた。

「月宮君・・・。」