社長の甘い罠~いつしか当たり前に~ + 番外編

背後から健人が抱き締めてきた。



「逆だ。逃げ道を塞いでた。」


「………薄れてない?」


「全然、変わらない。俺は花菜の逃げ道を塞ぐのに一生懸命だ。」



耳元で囁く甘い声が擽ったい。



「週末には花菜の両親に、月曜には引っ越し。逃げ道はなくなる。」


「…………。」


「こんな俺は嫌?」


「…………。」


「花菜、俺が嫌になった?」


「…………。」



引っ越しも親への挨拶も本当は嫌じゃない。だけど勝手に決められたのは怒っている。



「ちゃんと相談して。勝手に有休にされたら怒るよ?」


「サプライズだ。怒るな。」


「ふふっ、健人らしいかも。」



そうだ―――――、強引な健人は今更だ。


二人の付き合うキッカケも強引だった。



「花菜、こんな俺は嫌?」


「ふふっ、嫌じゃない。」


「俺を愛してる?」


「ふふっ、愛してる。」


「俺も愛してる。」



耳元で囁く健人の甘い言葉に笑みが溢れる。