「島本さん!」

「え?」

「自己紹介。」

「あ、あぁ…」



こういうのは苦手だ。
でも、そんなことは言っていられない。



「し、島本雪彦です。
と、年は30歳です。」

「島本さん、ご趣味は?」

座ろうとしたら、僕の向かいに座ってた女性がそう言った。



趣味……



そんなこと、考えたことがなかった。
強いていうなら、僕の趣味は好きな人に喜んでもらうこと…って、そんなの趣味って言わないか。
第一、僕はそういう尽くし癖をもうやめるんだから。



でも…そしたら、僕の趣味って何だろう?
遊びに行く場所も、なにかをする時も、僕はいつも彼女の喜ぶことを考えてそれを選んでた。
自分の意志なんてなかったに等しい。



そうだよ…僕には趣味らしい趣味なんてないんだ。
でも…趣味の一つもないなんて言われたら、きっとひかれる。
何か言わなきゃ…



「え、えっと…お、音楽鑑賞です。」

僕は一番無難と思われるものを選んだ。



「どういうのを聴かれるんですか?」

「え?え…えっと……」



どうしよう?
普段特に音楽を聴かないから、今、どういうのが流行ってるのかもよくわからない。
クラシックとでもいうか?
でも、それじゃあ、堅物と思われてしまうかもしれない。
どうしよう!?早く何か言わないと…



「い、いろいろです。」

焦って答えにもならないことを言った僕は、愛想笑いを浮かべてその場を切り抜けた。