「本当だ」

「でもさ… 実は俺、やらかしちゃってさ」

悠真がバツが悪そうに呟いた。
 
「え?」

「その指輪、昨日お店から受け取ってきたんだけど、その後、本間さんと会ってた喫茶店に置き忘れてきちゃったんだよ。たまたま喫茶店のスタッフが本間さんと知り合いだったみたいで、彼女のところに指輪が届けられて、それを今度は彼女が会社に届けてくれたんだよ。今日、連絡貰って俺も焦ったよ。全然気づかなかったから」

あっ…
その瞬間の悠真を知ってる。
車の中で驚いた顔をしてたあの時だ。

「なんだ… だったら始めからそう言ってくれればいいのに… 悠真が変に隠すから」

「大事な指輪を置き忘れたこと、沙耶に言いづらかったんだよ」

ごめんなと笑う悠真を見て、一気に気が抜けてしまった。

「あ、そうだ。式はさ、来年の沙耶の誕生日にあのガーデンチャペルで挙げような。その頃までに会社も軌道に乗せるから」

窓の外に光るチャペルを見つめながら、悠真が力強くそう言った。

26歳でプロポーズ
27歳で挙式

結婚の理想はと訊かれてそう答えたけれど…
『悠真との結婚』こそが私の理想であり夢だったのだ。

「ありがとう 悠真。私の夢叶えてくれて」

にっこり笑ってそう言うと、悠真は私の頰に手を触れた。

「一生大事にするから」

「うん」

「愛してる…」

「私も…」

そして、吸い寄せられるようにお互いの唇が重なった。

けれど、その瞬間…
『コンコン』とドアをノックする音が聞こえ…

「あっ、大変失礼致しました!」

料理を運んできたウエイターが、慌てて部屋を出て行った。

「やだ、キス見られた~」

「つうかデジャブだな… これ」

「そうだよね… 三年前のプロポーズの時もここでキス見られちゃったんだよね… 暫くは仕事で来るの恥ずかしかったよね」

「あの時もあいつだったよな? あいつさ、ノックしてから入ってくるタイミングが早いんだよな… カップルの時はせめて10秒だろ。よし、指摘事項に書いとくか」

「悠真… 三年前も言ったけど、それ絶対やめて!」

すっかり甘いムードは吹き飛んでしまったけれど、この日は私にとって最高に幸せな夜となった。