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「高本さん!加瀬さんってゲイなんかじゃなかったですよ!これ見て下さい!」

昼休みにトイレに行ったら、先週、悠真のことを訊いてきた可愛い新人の子が、そう言って携帯を差し出してきた。

何事かと思いスマホを見ると、そこにはなんと、悠真と身知らぬ女性の密会現場が映っていた。

「これ… どうしたの?」

動揺を隠しながら尋ねると、彼女はこう答えた。

「昨日、会社帰りにこの喫茶店の前を通ったら、窓際の席で加瀬さんとこの女性が二人でお茶してたんです! 加瀬さん凄く笑顔だったし、きっと彼女ですよね? なので──」

そんなバカな…
悠真に限って浮気なんて…

確かに昨日は帰りが少しだけ遅かったけれど、夕食だってちゃんと家で食べてたし…

「高本さん?」

「え? あ… ごめんね なんだっけ?」

途中から彼女の言葉を聞いていなかった。

「あ、はい… だから、加瀬さんの名誉の為にも高本さんにもお伝えしなきゃと思ったんです。それと、私はもう加瀬さんのことは諦めました。どの道、こんな綺麗な人が相手じゃ敵いっこありませんから…」

「そ、そっか…」

「はい… それじゃ失礼します」

彼女は私にペコリと頭を下げてトイレから出て行った。

大丈夫…
きっと何か事情があったに違いない。

ちゃんと悠真に確かめてみよう
心を落ちつかせながら、私は大きく深呼吸した。


***


「沙耶? さっきからヤケに静かだけど、もしかして具合でも悪い?」

訪問先に向かう車の中で、悠真が心配そうに声をかけてきた。

「え? あ、ううん そんなことないよ」

さっきのことを確かめようとしているのだけど、緊張してなかなか切り出せずにいる。

「なら良かった。せっかくの誕生日なのに、沙耶が具合悪いんじゃ何にもなんないからな~」

悠真はそう言ってニコリと笑った。

「う、うん…」

そう
実は今日は、私の26回目の誕生日なのだ。

仕事の後、悠真がサクラガーデンでお祝いしてくれると言っていたけれど…

やっぱり、今日は聞かない方がいいのかな…
いや、でも、このモヤモヤを早くスッキリさせたい気もするし…

悩んでいるうちに訪問先へと着いてしまった。