「待って! 悠真…」

慌てて寝室へと追いかけて彼の背中にしがみついた。

「本当の理由… ちゃんと話すから…」

このままじゃ、悠真の心が離れていくような気がして…
ちゃんと打ち明けるしかないと思った。


リビングに戻り、私は悠真と並んでソファーにすわった。

「私だってね、早く悠真と結婚したいと思ってるよ。でもね、どうしても悠真に私以外の人とコンビを組ませたくないの。だって皆、悠真のこと狙ってるんだもん… 今年の新人の子達だって、皆悠真のファンなんだよ。そんなの心配で身が持たないでしょ?」

真剣な顔でそう言うと、悠真がキョトンとした顔で呟いた。

「え… 何… それが理由?」

「そうだよ… 呆れるかもしれないけど、私にとってはとても深刻な問題なんだから!」

力を込めてそう言うと、悠真は私の体をギュッと抱きしめてきた。

「なんだよ… だったら早くそう言えよ。こっちはすっげー悩んだんだからな? 心変わりして、ホントはもう俺となんか結婚したくないのかと思ってたよ」

「ご、ごめんなさい… 私はただ、ヤキモチ妬いてるのを知られたくなくて…」

私が謝ると、悠真はため息をつきながら優しく笑った。

「沙耶は、そんなに心配なんだ? 俺が他の子と組むの」

「だって、ホテルに誘われたりもしたんでしょ?」

「え… 何でそんなこと知ってんの?」

悠真が目を丸くさせた。

「総務課の根本さんが色々教えてくれたから。悠真とコンビ組む人は皆な悠真を好きになるんだって。だから、結婚したって、全然安心なんかできないなって思った」

「そっか… なるほどな。分かったよ、沙耶」

「え… 分かったって」

「だから、とりあえず、今まで通り俺達の関係がバレないようにすれば良いんだろ? 俺も結婚のことはもう口にしないようにするから。これでいい?」

「う、うん…」

でも、いざそう言われてしまうと、それはそれで不安になる。

「結婚はしなくて…いいの?」

「今の会社にいる限りは仕方ないよな? いいよ、このままで… 部長も沙耶のことを、唯一俺と恋愛トラブルにならない貴重なアシスタントだって思ってるみたいだから… コンビも当分このままだよ」

クスッと笑いながら、悠真はそんなことを呟いた。
なるほど… 
だから、私は二年経っても悠真の担当を外れなかったのか…
心の中で納得した。

「あー でも、その指輪は…… 一旦外しとこっか」

悠真は私の婚約指輪を見つめてそう言った。

「どうして?」

「そろそろ、沙耶のウソだって詮索してくる奴も出てくるだろ? バレる前に『一旦白紙に戻した』って言っておきな… 指輪は俺が預かっとくから」

「え… う、うん」

確かにそうなんだけど…

何となく釈然としないまま、私は指輪を外し悠真の手の中に預けたのだった。