「じゃあ、二年前も、雪乃ちゃんはその従兄に脅されておまえと別れたってことか!? それで、おまえ… それ聞いてどう思ったんだよ?」

「そりゃもう、罪悪感でいっぱいだったよ… あの時気づいてやれなかった上に、他に好きな子作っちゃった訳だからさ… だけど気持ちもないのに雪乃とやり直す訳にもいかないだろ? 俺は死ぬほど沙耶を愛してるしさ… だから雪乃には申し訳なかったけど、もう戻れないって伝えたんだよ」

加瀬が辛そうな顔で言った。

「そっか… まあ、仕方ないんじゃない… 雪乃ちゃんには気の毒だけど、どんな形であれ手放したのは彼女の方だしさ。確かにおまえの言う通り、あとは彼女の店を守ってやる事ぐらいしかできないよ。で、結局、雪乃ちゃんを脅してたその従兄って奴はどうなったの?」

「あー 実は沙耶がさ、俺が捕まえる前に──」

そう言って、加瀬は2週間前の出来事を興奮気味に話し出した。

「もう心臓止まるかと思ったよ。沙耶がそいつのポケットから携帯奪い取って逃げた時はさ… 急いで駆けつけたら、今度はそいつと階段の上でもみ合いになってて、俺が慌てて駆け上ったら、沙耶が携帯掴もうとジャンプしちゃってさ」

「あー おまえのその骨折って、高本さんを庇った訳ね」

「え? あー まあ、そうだけど… とにかく俺の骨折だけで済んで良かったよ。ホントに沙耶は無鉄砲だから…」

ふーとため息をついた加瀬。

「高本さんだって、おまえの為に必死だったんだろ」

俺がそう言うと、加瀬は切なげな表情を浮かべて大きく頷いた。

「そうなんだよ… 健気だろ? しかも、犯人捕まえた後、俺が雪乃のとこに行けるようにって、ワザと浮気したフリして別れようとしてたんだぜ? ホント参るよなあ」

それから、加瀬は高本さんの話をエンドレスに続けた。
殆どが、いわゆる惚気話っていう奴だけど。
酒も入っていないのに、よくもまあ、こんなに惚気られるよなって、聞いてるこっちまで恥ずかしくなる。
何が『イチイチ報告する義務なんてねーだろ』だよな…

「なあ、おまえ、ちゃんと俺の話聞いてんの?」

「はいはい 聞いてるよ… 幸せなんだろ?」

「全然聞いてねーじゃん。」

「何? 幸せじゃないの?」

「幸せなのは当たり前なんだよ… そうじゃなくて、沙耶を思い切り抱きしめてやれないのが辛いって言ってんの」

「ハハッ 何だよ… その乙女チックな悩みは」

真顔で何を言ってるんだと、思わず吹き出すと…

「おまえさ… バカにするけど、あいつの可愛いさハンパないんだからな? 最近、俺のこと名前で呼ぶし、すっげー甘えてくるんだよ… 可愛いことも沢山言うしな。それなのにこんな体じゃ」

「はいはい… 早く骨がくっつくといいな」

この溺愛ぶり…
雪乃ちゃんの時以上だな…

この憎めない同期の幸せそうな顔を見て、ホッとした俺だった。