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一夜開けた月曜日…
私は銀行で下ろしてきた現金を持って、早速悠真のマンションへと向かった。

「別に、いつでもよかったのに…」

悠真は封筒を受け取りながら、そう言って笑った。

「うん でも、こういうのはきちんとしたいし。それに高本さんって会社に行っちゃったんでしょ? お昼とか困ってるんじゃないかと思って… 私が何か作ってあげるよ」

私はスーパーの袋を見せて、玄関からそのままキッチンへと向かった。

「雪乃 大丈夫だから…」

悠真が脇腹を押さえながら、ゆっくりと歩いてきた。

「お昼なら、ちゃんと沙耶が用意してくれてるから…」

悠真の視線の先には、コンビニのサンドイッチと菓子パンが並んでいた。

「えっ… もしかしてこれ?」

私はテーブルに置かれたパンを手に取った。

「そうだよ。朝、会社に行く前にわざわざ買いに行ってくれたんだよ」

「そうなんだ… でも、ちょっと体に悪そう。ちゃんと栄養つけた方がいいと思うし、やっぱり私が作ってあげる」

お節介だとは思ったけれど、悠真を放って会社に出てしまった高本さんにちょっと腹が立ってしまった。

けれど、

「雪乃… ホントにいいから」

悠真が本気で拒絶したのが分かった。

「悠真…」

「ごめんな…」

「ううん そうだよね…」

もう、私の手料理を何よりも喜んでくれる悠真はどこにもいないのだと、思い知らされた。

「それから…」

悠真が続けた。

「何?」

「店のことだけどさ、俺の仕事はここまでだから、あとは長谷部っていう奴に引き継いでおくな」

「そっか… そうだったね。悠真とは物件見つけるところまでっていう約束だったもんね。ありがとう。いいところ見つけてくれて…」

「ああ 頑張れよ… 影ながら応援してる」

「うん 犯人も見つけてくれてありがとね… まあ、春樹さんだったのはショックだったけれど…」

「そうだよな…」

「でも… 悠真はどうして彼が怪しいって思ったの?」

「雪乃を見る目が男の目をしてたからかな… 俺には嫉妬心剥き出しだったし…」

「そっか…」

「結局、あいつどうなるって?」

「分からない… おじ様も凄く怒っちゃってるから暫くは帰って来れないと思うけど」

「まあ、自業自得だよな…」

悠真はフッと笑った。

「うん… それじゃ、私、そろそろ帰るね。」

「ああ…」

「あ、そうだ… 最後にひとつだけ教えてくれる?」

「なに?」

「うん… もしね… 私が半年前に悠真に声をかけていたら、悠真は私を受け入れてくれてた?」

今更、意味のない質問だとは思ったけれど…
この先、ずっとそれを引きずってしまう気がして…

「ごめん…」

悠真はそう言って、首を横に振った。

「そっか… よかった。これでスッキリしたかも…」

私は精一杯の笑顔を作って、彼の前から立ち去った。

悠真…
今度こそ、さようなら

これで、私もやっと前に進める気がした。