「あの、もしかして… これ、私への指輪だったり…します?」

ドキドキしながらそう尋ねると…
加瀬さんは「当たり前だろ」と言って頷いた。

「ちゃんと沙耶のイニシャルだって入ってるから」

加瀬さんに言われて、指輪の刻印を見てみると、
そこにはしっかりと『Y to S』の文字が…

そっか…
てっきり、これは、雪乃さんへの『未練の品』とばかり思っていたけれど…
私の為に用意してくれた『婚約指輪』だったんだ。

ホッとしたのと同時に、嬉しさで胸が熱くなっていった。

「あの、加瀬さん、嵌めてみてもいいですか?」

なんて…
まだプロポーズもされてないのに、すっかり舞い上がってしまった私。

けれど…

「沙耶、ごめん… それ、返してくれる?」

「え?」

「まだ、早いだろ? 結婚なんて」

その一言で一気に突き落とされた。

「そう…ですね」

私は指輪をそっとケースの中に戻した。

確かに付き合ってまだ1ヶ月ちょっとだし、プロポーズなんて早すぎるとは思った…

けれど…
こんなのって…

「だったら… 何で買ったりしたんですか…」

私は思わずそう呟いていた。

「いや、それは」

「まだ結婚なんて考えられないなら、こんな期待持たせるようなことしないで欲しかったです! 凄く嬉しかったのに… 加瀬さんのバカ!」

勝手に見つけておいて、こんなことを言うのもどうかとは思ったけれど…

無償に腹が立ってしまったのだ。

「あ、いや、違うよ、沙耶…」

「もう、いいです… 私、もう、寝ますから! おやすみなさい!」

「いや、待てって!」
 
咄嗟に引き止めようと、加瀬さんはベッドから身を起こした私の手を、思いきり引いた。

「えっ! キャ!!」

その結果、バランスを崩した私は加瀬さんの胸の上へ…

「うっ イッテ~」

当然、加瀬さんからは悲鳴が上がった。

「加瀬さん、大丈夫ですか!!」

「あ、ああ 大丈…夫…」

加瀬さんは苦しそうに顔を顰めながら、必死に痛みに耐えていた。


**


ようやく落ち着いた加瀬さんが、再び口を開いた。

「沙耶はさ… プロポーズは26歳の誕生日で、結婚式は27歳の誕生日っていうのが理想じゃなかったっけ?」

「え……」

キョトンとする私を見て、加瀬さんがため息をついた。

「そっか… やっぱ覚えてなかったか。前にガーデンチャペルの打ち合わせした時に、沙耶そう言ってたんだけどな。だから、沙耶の希望通り待つつもりだったんだけど」

「あー 何となく思い出しました! けど…あれは別に」

そう
あれは、聞かれた質問に適当に答えただけだった。
相手もいないのにそんなことを聞かれて、凄く困惑したのを覚えている。

「なんだ… じゃあさ、もう結婚しちゃおっか?」

加瀬さんが思いついたように言い出した。

「いやいや、そんな無理しなくていいですよ」

「何で? 俺は今すぐにでも結婚したいよ。なんせ、3年も先の婚約指輪を、浮かれて用意しちゃうくらいだからさ」

加瀬さんがそう言ってクスリと笑った。

「ホントですか! じゃあ、宜しくお願いします!」

にっこり微笑んで、加瀬さんの顔を覗き込むと、

「プロポーズは骨がしっかりついてからな」

そんな可笑しなセリフを甘く囁きながら、加瀬さんは私の顔に手をかけて、優しいキスをくれたのだった。


 [完]


更新が遅くなり申し訳ありませんでしたm(__)m
ここまで、読んで下さった方、本当にありがとうございましたm(__)m