「何であいつに預けてんだよ…」
 
ため息交じりに加瀬さんが呟いた。

「すいませんでした… 明日、ちゃんと隼太くんに」

「つうか、おまえのその隼太くんって呼び方も、すっげームカつくんだけど… 少しは気を遣えよ」

加瀬さんの言葉に、何だかカチンときた。

「だったら、加瀬さんも雪乃さんのこと名前で呼ぶのやめてくれませんか。雪乃、雪乃って、私だって不愉快ですから。それと、雪乃さんのものもちゃんと処分して下さいね。いつまでも未練がましくてムカつきますから!」

言ってやった。
でも、これくらいいいよね。
加瀬さんだって悪いんだから…

「あのさ、沙耶は何のこと言ってんの? 雪乃のものなんて何もない筈だけど…」

眉間にシワを寄せながら加瀬さんが言う。
それならばと私はこう言い返した。

「まず、キッチンにあるお菓子の調理器具、あれって雪乃さんの物ですよね? 返すなり売るなり捨てるなり、とにかく早く処分して下さい!」

けれど、加瀬さんの口からは予想外の言葉が飛び出した。

「……あれ、俺のだよ」

「え!?」

私は目を丸くしながら加瀬さんを見た。

「うそ…」

「うそじゃないよ… 入社した時に揃えたんだよ。この職種なら使うこともあるのかと思って… 結局、使う機会なんかなかったけどさ。雪乃だって使ってないからな? 俺甘いの苦手だって知ってるだろ?」

「そ、そうですね…」

思わず納得する私。

そっか…
てっきり、雪乃さんが加瀬さんの為に持ち込んだものかと思ってたけど…
どうやら私の勘違いだったようだ。

「で? 後は何?」

「あっ はい… ちょっと待ってて下さいね」

そう
今度こそ…

私は起き上がって、ベッドサイドにある引き出しへと手を伸ばした。

すると、

「待て待て待て待て! そこは開けんな!」

加瀬さんが慌てた声でそう言った。

ほ~ら
やっぱり…

私は加瀬さんが動けないことをいいことに、引き出しを開けて、中から指輪の箱を取り出した。

「これ… いつまで持ってる気ですか? 雪乃さんから返された指輪なんて… 持ってて欲しくないんですけど…」

私はそう言って、指輪を加瀬さんの目の前に差し出した。

「いや… おまえ、それは…」

口籠もる加瀬さん…
その表情を見て、私はハッとした。

「え!?」

まさか…
これって!